2008年2月18日月曜日

後世に伝えたい義母のレシピ:トード・イン・ザ・ホール

これはかなりレトロなイギリス料理で、しかもどちらかというと庶民の食べ物である。逐語訳すれば「穴の中のカエル」という意味だが、体裁としては天ぷらの「ころも」みたいなものの中にソーセージを入れてオーブンで焼いたもの、ということになると思う。ヨークシャープディングというプリンではなく、甘くもないローストビーフの付け合わせのことは、<知ってる人は知ってる>程度のものと思う。「トード・イン・ザ・ホール」は、あれと同じ「ころも」を使うわけである。中産階級出身の友だちに、フィッシュ&チップスやトード・イン・ザ・ホールみたいなものは「貧乏人の食事だよね」と言って憚らないのがいる。まあ、お好み焼きとかと一緒で、安く腹を膨らませるために庶民が考案し、定着してきたという経緯はあるようである。

それはともかく、所謂<おふくろの味>的なものでもあるせいだろうと思うが、「トード・イン・ザ・ホール」はレシピ本などにはあまり出ていないものである。ぼくもこの「トード・イン・ザ・ホール」は10年以上前に義母から教わった。どこにも書き留めていないが、簡単なのでまず忘れない。たまに見かけるレシピと比べて義母のレシピの独特なところは、この「ころも」を作るときに水と牛乳を半々にすることである。「そのほうが、牛乳だけよりパリッと仕上がるのよ」。基本の分量は小麦粉4オンス、卵2個、件の水の牛乳割りのようなもの半パイントに塩とふくらし粉をひとつまみずつ。120グラムの粉、280mlの液体くらいに換算できるだろうか。この比率で、「どろっ」と「さらさら」の中間くらいの重さになるはずである。粉のものなので寝かせておくことが肝要だが、これはソーセージを調理している間に寝ていてもらえばいいわけで、順番としてはオーブン余熱→「ころも」を計量、混ぜる→ソーセージ投入→焼けたソーセージに種を流し込む、といった感じ。220度という高温で、ソーセージを大さじ4杯くらいの多めの油で焼く。途中何度かひっくり返すと、ちょうど20分くらいで<きつね色ちょい手前>になっている(はずである)。ここに、寝ててもらった「ころも」を流し込んで急いでオーブンに戻せば30分くらいでトレイからはみ出んばかりに膨らむ(はずである)。

ヨークシャープディングもそうだが、調理には油が必要である。伝統的には牛脂を使うらしいが、ぼくは高温でも焦げにくいガチョウの脂かピーナツ油を使う。スフレなどと同じで、ここでものすごく重要なのはこの「ころも」を入れるトレイが<そりゃあもうあーた>ってくらいにものすごく高温になっていることである。「トード・イン・ザ・ホール」の場合、トレイを熱くするのは決して難しいことではない。前もって、同じトレイでソーセージを焼いておけばいいからだ。手間がかからなくて、すごく簡単。

ちなみに、イギリスには「セルフ・レイジング」というふくらし粉があらかじめ混ぜた状態で売られている小麦粉というのがある。ドイツ人やハンガリー人の友だちにも聞いたのだが、同種のものはドイツやハンガリーにはないそうである。これも初台の友だちと<イギリス料理談義>しているときに出てきたのだが、セルフ・レイジングを使うと薄力粉にベーキングパウダーを混ぜたものとは、若干仕上がりが違う。義母の「トード・イン・ザ・ホール」もセルフ・レイジングなのだが、これに更にふくらし粉を足すわけである。もこもこに膨らんだ「トード・イン・ザ・ホール」にするためなんだろうな、と思う。「トード・イン・ザ・ホール」は、庶民の味とはいえそれなりに歴史のある料理だ。バリエーションも様々で、牛乳と水を混ぜるのもおそらくは義母のオリジナルということでもないとは思う。が、ぼくにとってはこれはあくまでも義母のレシピである。

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