2007年11月30日金曜日

第三世代は2008年春

Diggだとか、早くはAppleInsiderだとか、方々で噂の絶えなかった第三世代のiPhoneは、どうやら2008年初旬をめどに発表になるらしい。ブルームバーグInformationWeekがAT&Tの公式見解ということで発表している。

そろそろ地下鉄の中などで半分隠しつつ(盗難を恐れて、なのだろうか)食い入るようにiPhoneを操作するギーキーな彼、みたいな人々を見かけるようになってきた。ノキアのテキスト入力技術に追うところが大きいSMS文化がアメリカよりも発達しているヨーロッパでは、「タッチスクリーンのテキスト入力が足枷」、「今更第二世代かよ」などの声もあったようだが、<自分マーケティング>の範疇では、着実にそのユーザー数を伸ばしているように見える。編みiPhoneってのもありましたね、そういえば。

Appleにもイギリスでの電波の悪さについてフォーラムが出されているが、そのほとんどは地方での話のようである。「他の携帯では問題ないのにiPhoneは」というのは気になるところではあるが、ぼくはロンドンだし、3Gが出たら使い勝手は相当に上がるので、受信状態はともかく来年春にかける橋。

2007年11月29日木曜日

瓶入りレモンの使い方

ぼくはボトルに入ったレモンを良く使う。料理にではない。掃除にである。重曹とのコンビで使うのだが、日本ではクエン酸が顆粒状で売っているので、適宜水に溶かして使うというのが可能だが、イギリスはそうはいかない。酢を使うという手もあるが、やっぱり強いのでね、香りが。しかし、レモンは安くないし、そうそうしょっちゅう使うわけにも、、、。そこでこの瓶入りの登場である。もちろん、これは食品として売られているものを、ケーキの材料なんかを売っている辺りから仕入れてくるわけで、食べて何の害もないものである。

使い方はいろんなところに出てるだろうから深く言及はしないけども、基本は重曹との組み合わせでステンレス部品なんかを磨く。蛇口とか、そういう部分ですね。あとはトイレの掃除だ。1が効く、2が効く、酸が効く、である。ガラスも新聞にレモンを軽くしみ込ませて拭くと、跡が残らない。食べられるものしか掃除には使わない、くらいのつもりで、ね。

ちなみにレモンだが、料理には瓶入りは決して使わない。「本物」のレモンを使う。ワックスのかかってないものが基本だが、気に入っているのはシチリア島のそれはまあウスラでかいごつごつしたレモンである。日本で見るレモンと比べると、まず大きさは倍くらいある。黄緑色で、甘みのある酸っぱさ、といったところか。シチリアのレモンはワックスがかかっているようには見えない(ピカピカしてない)のだが、この辺はまああんまり深くは追求しないでおくことにして、と。まあとりあえずおいしいので。

2007年11月28日水曜日

古いラテンの車:アルファ・スプリントGT

ロンドンの街並に、ずっと前からある割になんとなく馴染みきれないまま「これでいいのだ」的に存在し続けていくであろうものがある。ラテン系のクルマである。古いクルマに限らない。新車でも、フェラーリだとかマセラティなんて、なんとなく「浮いている」気がする。高級だからいかん、ということではない。ドイツ人の友だちも、ベルリンでポルシェを見かけると、「ポルシェ乗ってるなんて、、、」っぽいものを思うらしいが、高級車に対する妬みとは別の次元だ。

それはともかく、浮いていようがなんだろうが、アルファ・ロメオ・ジュリア・スプリントGTの美しさは変わらない。半世紀近く前のベルトーネデザイン、古くないですよね、まったく。それにいつ見ても古いイタリア車、「どうやったら出るんだろう、この赤」、だと思う。燃費だって悪いし、事故ったら間違いなく死ぬだろうけど、やっぱり見とれてしまった、路上のアルファ。ちなみに画像は、ロンドン動物園からほど近いプリムローズ・ヒルでの佇まい。

2007年11月27日火曜日

「愛してる」にどう答える?

ある意味、究極の「あなたならどうする?」ではないだろうか。突然何を言い出しやがるんだというのは、今月初めに目に留まった「Mother Tongue Annoyance」というブログに出ていた投稿なのである。このサイトだが、「英語の悪いクセ」くらいの意味だろうか、イソップからスラングまでいろいろ面白い視点で英語によるコミュニケーションのあり方を語っている。

で、「愛してる」への答えなんですけどね、「これはやっちゃダメ」が何点か出ている。「愛してる」→「分ってる」、「ありがと」、「同じく」は禁物だそうである。なんだかんだ言って「わたしも/ぼくも」、というのが一番なのか?

この記事を読んでいて、例えばこれを敷衍して、「あなたが愛の告白の際にかけたい音楽は?」みたいな質問を投げたらどうだろうか?なんて思った。ロックっぽいものか、ラテンの血が騒ぐのか。いや、音楽なんかかけたくない、という向きもあるだろう。とか思いを馳せつつ、やっぱシューマンの『謝肉祭(作品9)』から「告白」かなあ。ぼくだったらコレ、ってほどのものはないんだけど。

2007年11月26日月曜日

恐るべき深度:リー・ミラー展

マン・レイのミューズだった人。ソラリゼイションは、この人なくては生まれなかった。それはモデルとしてのみならず、その技術を発展させたという意味においても、である。ジャン・コクトーの「詩人の血」で、<美の模範>ともいうべきギリシャ風彫刻を演じているが、これはこの人の美しさを物語るに十分なエピソードではない。また、その美しさの中に埋もれがちだが、手に職のある人でもあり、ニューヨークにスタジオを建てた際には自分で電気関係を設置したりもしている。終戦直後、アメリカの従軍記者の資格を取っていたことを最大活用し、自殺直後のナチ将校のポートレートを撮っているかと思えば、ヒトラーの風呂に入ったりもする。マン・レイと別れた後、エジプト人実業家の妻となり、数年しないうちにイギリス人のキュレーターであり画家でもあったロウランド・ペンローズと駆け落ち、40歳で一子をもうけ、戦後はイギリスの田舎でヴォーグ誌に時折「みんなでお手伝い」的な内容の写真シリーズを寄稿、その働くゲストの中にはマックス・エルンストもいたりする。子供の頃の生い立ちだってすごい。7歳で母親の友人に強姦され淋病を移されたり、10代の頃のヌード写真が父親によって多数撮影されていたり、車にはねられそうになったところを助けたのがヴォーグの社主だったという因縁でモデルを始めたり。それにこの、一見なんてことなさそうな一枚の写真。1937年に撮影されたピクニックでのスナップだが、被写体は左からポール・エリュアール夫妻、当時の不倫相手で後の息子の父親であるロウランド、かつての師匠であり恋人であったマン・レイとその恋人アディ・フィドゥランである。こんな写真を撮れる人は、この人しかいない。


その人の名はリー・ミラー。2008年1月6日までヴィクトリア&アルバート美術館で開催されている回顧展。「わがままに生きるって、なんだろうか。それはローライフレックスの二眼レフが教えてくれる」とでも言いたそうな写真たち。オフィシャルサイトもある。アーカイヴのキュレーターは息子のアントニーである。そのアントニーによる伝記は邦訳も出ている(「リー・ミラー 自分を愛したヴィーナス」PARCO出版、1989年刊)。写真はオフィシャルサイトでも多数見れるが、「リー・ミラー写真集 -いのちのポートレイト」という写真集も邦訳されているので、興味のある方はぜひ。

2007年11月25日日曜日

本日のマーマイト猫

猫にも乳歯があるというのを最近知った。うちの猫もそろそろ生え変わる時期らしい。ある日見慣れない超小型牙のようなものが、床に転がっていたりするものだそうである。

それはそうと、マーマイトというものをご存知だろうか。バターを塗ったトーストに、ほんのちょっぴり程度がほどよい塩加減の、まあ「しょっぱいジャム」とでも言ったものだろうか。果物ではなくビール酵母の副産物なので、ビタミンB6が豊富である。これでグレイビーだとか、即席スープストックが作れたりもする。まあ<ビールの酒粕>のようなものだろうか。清酒からは甘酒、ビールからはマーマイト、である。でこのマーマイト、これがまた激しく好き嫌いが分かれる。ダメな人は全くダメだが、好きな人は「あたし、マーマイトなしには生きていけないの」的な展開。ここら辺は納豆のそれと近いかもしれない。で、何の話かというと、猫はこのマーマイトが好物なのである。朝のトーストに以上に興味を示すので、ちょっと与えてみたらナイフまでなめそうな勢いなのだ。猫にはちょっと塩分が強いかもしれないが、まあ害になるほどのものでもなかろうと思われるのでまあ、たまのご褒美的に。

2007年11月24日土曜日

ドラスティックに変化する言葉の意味

緒言1:本人をして「似てる」と言わしめた名作「十年前の矢野顕子」を含む、清水ミチコのアルバムに「幸せの骨頂」というタイトルがある。
緒言2:現代の英語でゲイというと、それはもう、まず真っ先に同性愛を意味する。

この2つになんの繋がりがあるのかというと、gayという英単語、元はこの「ものすごく幸せ」、「明るくて派手」みたいなことを意味していた、という話である。しかも、その用法は何世紀にも渡って使われてきたものだったのだ。ジェイン・オースティンだとかディケンズなんかを読んでいてもゲイは活気がある、楽天的、恐いもの知らず、向こう見ず、的な意味でしか使われない。いや、そんなに遡らなくても、ゲイが現代の意味で幅広く使われるようになったのは60年代くらいかららしい。ゲイが現代の意味を持つようになる前に命名されたからであろう、Gayという名前の女性もいるくらいである。

この、<元の用法>を逆手に取った、実に賢いシーンがトウニ・クシュナーの戯曲「エインジェルズ・イン・アメリカ」に出てくる。プライア・ウォルターという登場人物の前に中世頃のご先祖様の霊が現れるのだが、同名のそのご先祖様曰く、

先祖のプライア「だってお前、女房も子供もいないじゃないか(You have no wife, no children.)」
現代のプライア「俺、ゲイなんだよ(I'm gay.)」
先祖のプライア「ゲイ?だったら派手に裸踊りでもしてみろよ、どうでもいいけど。ってそれ子供がいないのと何の関係がある?(So? Be gay, dance in your altogether for all I care, what's that to do with not having children.)」

といった具合である。ちなみにこの芝居は2003年にテレビ化されて、このシーンはマイケル・ガンボン(ハリポの校長先生だ)とジャスティン・カークが演じている。サイコー。

ちなみに、ゲイ=同性愛が「ウラの意味」的に使われ始めたことが記録に表れ始めるのは1930年代である。これよりも前に使われていたのかもしれないが、全国レベルで大っぴらに使われたのは、とある映画が最初だった。日本ではあまり知られていないようだが、ケアリ・グラントとキャサリン・ヘプバーン主演の「赤ちゃん教育(いつも言ってるようで恐縮ですけど、なんとかならんのかこの邦題)」という1938年作品である。この映画の中で、グラント演じる古生物学者がやんごとない事情で女物のガウンを着ることになるのだが、ここで「あんたゲイね」と出てくる。女物を着せられてとても幸福そうには見えないので、皮肉っぽく「まあ楽しそうね、ふふふ」、なわけである。

話がちょっと戻るが「エインジェルズ〜」には言葉の意味の変化の例がもうひとつ出てくる。バスタード(bastard)である。現代では人でなし、ろくでなし、的な意味で使われるが、元の意味は私生児である。先刻のプライア君、同じシーンの続き。中世のご先祖様の他に、もう1人別の宮廷風衣装のご先祖様が出てくるのだが、

現代のプライア「まだいるのかよ(Oh God another one.)」
先祖プライア2「プライア・ウォルターだ。貴様の前にも17人おるが(Prior Walter. Prior to you by some seventeen others.)」
先祖プライア1「バスタード込みでな(He's counting bastards.)」

である。当然のように、この中世のプライア(ご先祖1)さんは私生児の意味でバスタードを使っている。作者の意図に、現代口語の「ろくでもないのもいたんだこれが」という隠された意味が込められている。それにしてもこのシーン、他にもダブルミーニングが含まれているので、ものすごく訳しにくい。このシーンの他にも出てくるが、プライアとは「先立つ」みたいな意味があるので、看護婦から名前のことをからかわれたりするのだ。後から出てくる二人目の、宮廷ご先祖様のいう「Prior to you by...」という下りは、プライアという名前でお前にプライアする(先立つ)のが17人いる、という語呂なのである。翻案がどう処理されているのか、かなり気になるところである。

それにつけても言葉の意味は、ものすごく早く変化する。貴様が「貴い」に「様」と書くくらいで、元は尊称だったことは有名な話だろう。意味だけではない。夏目漱石を読んでいると畢竟という言葉が良く出てくるが、現代口語でこの言葉を使う人はまずいない。言葉というのは用法の変化、風化も早い。

余談だが、英語のgayは女性の同性愛(所謂ひとつのレズ、ですね)にも使われることがある。たとえば<ゲイっぽい見た目のレズ>、というのは用法として間違ってないことになるので、そこんとこひとつ。

2007年11月23日金曜日

新作映画公開ラッシュ

かつては観たい映画というと<月に何本か>、程度だっただったように思う。ここ数年、観たい映画は<週に何本>もある。イギリスはアマゾンがレンタルDVDをやっているのだが、観たいと思っている映画は100本以上登録してあったりもする。新作映画の公開が始まるのは通常金曜だが、特に11月23日の金曜日は(個人的に)ものすごい公開ラッシュなのだ。

一番気になっているのはウェス・アンダソンの「ダージリン急行」。「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」、「ライフ・アクアティック」といった怪作を放ち続ける若手監督の最新作である。ストーリーは、、、?1年以上お互い口を利いていない3人の兄弟が、長男の発案でインドに旅行。紆余曲折あり、3人は砂漠のど真ん中にスーツケースとプリンタだけ残される。そこから始まる新たな旅とは、、、。オウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマンの主演で、シュワルツマンは脚本にも関わっている。「ハッカビーズ」の主役、「マリー・アントワネット」のルイ16世で、幅の広さと奥の深さを感じさせた、注目の映画人だ。
「ダージリン急行」は日本でも2008年3月公開予定。

その他にもドン・チードル主演の「Talk To Me」(天才チュイテル・イジオフォも共演である。それだけで観たい。ところでこの人のファーストネームはキウェテルでは決してありませんのでそこんとこよろしく)、ヴェルナー・ヘルツォークの「Rescue Dawn」(クリスチャン・ベイルの主演でヘルツォーグとくれば、話のスジがなんであっても観たい)も今日から。あと(評判は芳しくないが)マイケル・ケイン、ジュード・ロー主演の「Sleuth」、厳密には新作ではないが「ブレードランナー ファイナル・カット」もロンドンでは今日から公開。日本では先週から公開が始まっており、レビューを見ると出来は散々なようだが、個人的にはやっぱり観たい。エンディングを除いて82年版のほうが好きだったこともあって、この最終版がどう料理されているのか。それにしても、どれから先に観に行こうかなー。

2007年11月22日木曜日

金時豆のようかん

ロンドンにも和菓子屋さんはある。柚子のお菓子だとかで、たまに利用させていただいている。友だちと黒豆をどう煮るだとかの「豆談義」しているうちに、思い出されたのが五勝手屋羊羹。筒に入っていて、下から押し上げて出てきたようかんを筒に付いている糸で適量切って食す。ぼくは一度に3本くらいは食べられちゃうので、糸で切ったことはないんだけど。ちなみに練りようかんよりは蒸しようかんのほうが好みなのだが、この五勝手屋羊羹は例外的に好きだ。ちょうどいい甘さ。そして固さ。煎茶、抹茶だとかの緑茶はいつも一保堂茶舖なのだが、ロウソクの灯りでようかんと玉露<鶴齢 >で気分はもう『陰翳礼賛』である。

江差と聞くと、つい「追分?」と思ってしまう自分が悲しいが、五勝手屋本舗は江差にあるそうである。北海道は1度しか行ったことがない。しかも札幌とその近郊のみだ。五勝手屋羊羹は北海道でしか買えないと聞いたが、その希少価値もさることながら2007年夏の騒動でしばらく五勝手屋羊羹が食べられないのかと思うと、いっそう悲しい。でもさ、ほら、豆談義って言えばレッドキドニービーンズって金時豆よね。というわけでまずは豆を一晩水に浸すところから。

2007年11月21日水曜日

いつでも夕日を

その名もEternal Sunsetである。ウェブカムで、常に夕日を追いかけているというだけのサイトだ。世界中どこにいても、アクセスしている時刻が朝であろうと夜中であろうと、世界のどこかは必ず夕日なわけで、いながらにして生の夕日が観られるわけである。

50以上の国で、西向きに配置された272のウェブカムが写してくれる夕日。もうすぐ昼のロンドンで観られる夕日はインドだった。

2007年11月20日火曜日

モンティ・パイソンのボックスセット

「尊敬している人は?」という質問への答えは、あの人と、この人と、、、と下手したら何十人もリストが出来てしまうのだが、いつも上位にランクするのはマイケル・ペイリンである。イギリス国内では<旅日記もの>で有名であり、「80日間世界一周」では日本にも行ってウナギを食べたり、競馬に挑戦したりもしている。先日放映の終わった「新しいヨーロッパ」シリーズは特に東欧を中心にEUへの参加で新たに加わった、<ぼくらの知らないヨーロッパ>を、いつものようなソフトな語り口で紹介していた。ヒマラヤとか、サハラとか、南極に行ったやつの方が面白いんだけどね。

いずれにせよ、大多数の人にとってマイケル・ペイリンは「モンティ・パイソンのマイケル」だろう。モンティ・パイソンのDVDは、日本でも2008年2月に伝説の吹替復活版が発売になる。「Mr. Booインベーダー作戦」な世代としては、広川太一郎の「ちょんちょん」だけでもその価値はある、というものである。イギリスでも12月の「ライフ・オブ・ブライアン」ブルーレイに先駆け、「Monty Python: The Monster Box Set (The Everything Ever in One, Gloriously Fabulous, Ludicrously Definitive, Outrageously Luxurious Special Edition Collection) 」というものが先日発売になった。「かつてなかった全部入り、輝かしいまでに驚嘆すべき、笑っちゃうほどド定番、あり得ねえ豪華特別版コレクターズモンスターボックスセット」、である(意訳)。画像にも出ているが、引出し式のボックスセット、テレビ放送全作品の他、映画作品3本に加え、「確実に、間違いなく、誰がなんと言おうと死んでいる(風船の)オウム」と木こりの歌Tシャツなんかも入っている。PALなので日本のテレビでは観れないが、お好きな人にはたまらないセットでは。

2007年11月19日月曜日

オーガニックな生活を一切れ

本は平行で、常時10冊近くを併読するというのが長い習慣になっている。なかでも今読んでいて一番面白いのはシェラザード・ゴールドスミス編集の「A Slice of Organic Life」という本だ。この手の本は、実際読んでいて「ためになる」、「やってみようかな」と思うことが書いてあるだけでも十分だと思う。例えばうちには庭がないが、窓際のプランタで水菜、春菊、小松菜などが栽培できる。それが「お、これならできそう」という風に書かれている。こういうのは「今更」なのかもしれないが、元は取れたぜ、十分。まあ、例えば<重曹でお掃除>だとか<干し果物・干し野菜を自家製で>みたいのは自分にとっては新しいことではない(もう何年もやってるし)。<お湯を沸かすときは必要な水量だけポットに>だとか<できるだけ少ない水で歯磨き>みたいのも、そんなことするくらいならシャワーのお湯を5秒早く止めるほうが水もガスも節約になると思う。それはともかくとしても、<植木鉢でもリンゴは育てられる>とか、<鴨を飼ってみよう>みたいな話はそれを実行するかどうかは抜きにしても楽しい読み物だ。

ところでこの編集長だが、女優の娘で女王という名を持ち、容姿も端麗でモデル出身、ユダヤのお金持ちと結婚してこの名字というだけで鼻持ちならないとするのは酷というものである。「子供を持つまでオーガニックな生活とは無縁だった」と述懐しているが、潔いではないか。

2007年11月18日日曜日

ベルプーリといっても

インドで食されているスナックではなく「カレーの種類」という認識で、ぼくは理解している。イギリスでも、カレー人気は高い。旧宗主国としてインド亜大陸からの移民が多いイギリスでは「カレーはイギリス料理のひとつ」と定義している学者もいるほどである。ちなみに「ティッカ・マサラ」として知られている料理は他でもないイギリス料理である。インドでは、ティッカをマサラソースに入れるという発想はない。


たとえば東ロンドン、タワー・ハムレット区。ここにはかなり大規模のバングラデシュ人コミュニティがあって、ブリック・レインなんて「カレー屋しかないのか?」みたいな道という感じでもあるし、有名店だとか他にもいっぱい美味しいところは街中にある。が就中、「しょっちゅう行ってます」度が高いのはダントツでDiwanaである。場所はユーストンという幹線駅から数分。開店は1971年、内装は開店当時から全く手を入れられていない。メニューも四半世紀以上の間、変わっていないそうだ。当然のようにウェブサイトなどなく、ガイドブックの類いにも、おそらくは出ていないであろうと思しきカレー屋さんである。ちなみにベジタリアン。

まず、昼間は「食べ放題」である。数十種類のカレーにチャパティ、ピラウライスからデザートまでいくら食べても£6.95、1580円くらいと聞くと日本では高いと感じるかもしれないが、ロンドンでは信じがたいお買い得さである(中華街の食べ放題でも£8以下は少ないし)。で、パニール(クリームもしくは牛乳に酢を入れて凝固させたチーズのようなもの)とグリーンピースのカレーが秀逸である。デザートにはスイカ、オレンジといった果物からグラブジャモンなどのインド/パキスタンの伝統的な揚げ菓子まで揃っている。それにしても、どれもカラフル。

午後6時を切替時間として、夜はドーサという南インドのクレープ状のものにスパイスの効いたマッシュポテトが筒状に巻かれているものがメニューの主体となる。カレーは茄子、オクラ、ヒヨコ豆などから選べるが、まー、これがまたどれを食べても美味しい。なお、恐いもの見たさを求める向きにはカシミール・ファルージャというドリンクがおススメである。薔薇の香りに細切れの春雨のようなものが入っているシェイクのような飲み物で、歯が溶けそうに甘い。「慣れると病み付き」系かも。

2007年11月17日土曜日

キャベツと服の市

週末である。マーリボーン・ハイ・ストリートの北の果て、教会の裏庭。ここに毎週土曜に市が立つ。Cabbages & Frocksという名前なのだが、なぜこの名前なのかは皆目見当がつかない。ちなみに「フロック」というのは服のことである。この市、服は確かにいっぱい売っているが、いつ行ってもキャベツは目に入らない。それはともかく、ここのハンガリー風クレープ、生チョコ、ルバーブのコーディアルは本当に旨い。今日はスウェーデン産のホロムイイチゴのジャムを仕入れて、来年の手帳を見にドーント・ブックスに寄る。ここは基本的には旅行関係の本を中心に扱っていたのだが、普通のフィクションも売っている。来年こそ、「This Diary Will Change Your Life」を仕入れようと思う。<今週はコレをしよう>みたいな見出しが週開きのページ頭に出ていて、「気に食わないやつに石をぶつけてみよう」、「ダライラマを怒らせてみよう」みたいな恐ろしいエントリがこれでもかと出てくる、手帳としても使える本といった感じのものだ。またコンランショップでバルザックチェアに体を沈めて石けんを仕入れて、といった風情で週末も半分過ぎる。

2007年11月16日金曜日

古い映画を観よう:その1—衣笠貞之助と枝川弘

特に理由があってということではないのだが、初公開から半世紀以上たっている映画のレビューというのをひとつのテーマとしてみようと、ふと思ってしまい。今回は特に、まだDVD化されていない作品から(早くDVD出してね、という願いもこめて)。

衣笠貞之助監督作品「地獄門」

衣笠貞之助は、話題性では「狂った一頁」に軍配が上がるだろうが、おそらく海外で一番有名なのは「地獄門」だろう。邦画初のイーストマンカラー、日本映画として初のパルム・ドール受賞作、初のアカデミー賞外国語映画賞受賞作という、「初づくし」である。しかし、こうした情報に踊らされると審美眼が曇るというものである。平安後期という時代設定、「んなやついねーよ」的な人物像、ダイナミックなカット割りに編集。この作品までに200本以上の映画に出ている長谷川一夫の珍しくもカタい演技、京マチ子の妖艶さ。この時代だからできた色彩をこそ楽しめ、という作品かもしれない。1953年作品。

枝川弘監督作品「恋と金」

正直、枝川弘がどんな監督なのかは全く知らない。1950年代の10年程度の短い期間に「寡作?」ほどの数の作品を残していること、クレージーキャッツのコメディを撮っていること以外は情報が見つからないのだ。「恋と金」は主題的にはドタバタ的だし、深い映画では決してない。ただなんとなく面白かったな、と思えるような映画である。登場人物もバラエティに富んでいるが、中でも秀逸なのは山本富士子だ。いや、山本富士子がすべてと言ってしまってもいいかもしれない。小津安二郎の「彼岸花」、市川崑の「雪之丞変化」を両極端として、「恋と金」の山本富士子は自然でバランスのいい芝居を見せている。演技の幅の広さ云々というより、かわいいのだ。1956年作品。

2007年11月15日木曜日

ユーロスターの高速化と発着駅変更


今朝、初霜があった。ボジョレ・ヌーヴォも解禁になった。保守派から「ヌーヴォは他のボジョレのイメージを傷つけている」なんて声も上がっているがそれはともかく、個人的にはワインよりも昨日のユーロスターの高速化と発着駅変更のほうである。

「ロンドンからブリュッセルやパリに電車で行ける」ユーロスターが開通したのは1994年11月14日。きっかり13年後の2007年11月14日に合わせて、ニコラス・グリムショーによるウォータールーインターナショナル駅から、なんと8億ポンド(約1800億円)かけて改装されたセイント・パンクラスインターナショナル駅へ。最高時速は186マイル毎時、すなわち300キロということだが、これは東海道新幹線の270キロよりも速いことになる(ただ、イギリス国内は高速化に不向きな構造のため、そのスピードは出ないらしい)。いずれにせよ、今まで3時間だったパリへの片道が、2時間15分と、大幅に短縮された。飛行機で飛んだ場合の「空港に2時間前に行って、税関通って荷物が出てくるのを待って、空港から市街地へ」、とやっているのより確実に速くパリ中心部に行ける。


ここでイギリス的だなあと思ったのがBBCの報道である。見出しからしてもう、「ユーロスターパリに定刻到着」である。まるで定刻に到着するのがすごいことでもあるかのようだ。この記事を書いた記者も逃れられない「電車は時間通りには着かないのが当たり前」的な発想が伺える。

いずれにせよパリが近づいた。飛行機よりもカーボンフットプリント低いし。ブリュッセルにも改めて行ってみたい。パリの友だちからも「おいでよ」と言われているし。近いうちに、ぜひ。

2007年11月14日水曜日

ブルジョワの蜘蛛

六本木ヒルズに長いこと置いてあったので、見たことある人も多いであろうルイーズ・ブルジョワのクモである。タイトルはMaman。お母さんか、これが。

で、「またテイト?」なわけですが、週末にスコットランドから友だちが来て、件の亀裂を見たいということでまたテイト・モダンに行ってきたのだ。その元発電所の川岸から、セントポール寺院を望むクモの脚(画像上の右から3本目の脚にちょっとセントポールの塔が写っているのだが、分ります?)。クレーンもにょきにょき立っていて、金余り建築ラッシュなロンドンの一側面を伝えるカットだなあと、ふと思ったりもし。

なお、1911年のクリスマスにフランスで生まれたブルジョワは、現在95歳。このクモのシリーズは80歳を過ぎてから制作に入ったものである。ややしばらくこの脚の周りでたむろしていると、「おばあさんなの?設置は本人がするんじゃないよね?」であるとか、「脚は外して持ち運べるようになってるはず」などといったコメントが聞かれる。ま、出て至極当然という疑問かもしれないが。

2007年11月13日火曜日

ジャック・ドゥミとツァイ・ミンリャン


渋い組み合わせだ。今月のBFI(「英国映画協会」とでもいったところか)の特集である。激レア作品、アヌーク・エーメ主演のModel Shopは終わってしまったが、「ロシュフォールの恋人たち」はこれからだ。ドヌーヴの実姉フランソワーズ・ドルレアック作品はまだ観ていないし、ぜひ行こうと思っている。正直言って、ドゥミの印象はあまり良くない。ミュージカルは基本的に苦手なのだが、唯一観たドゥミが「シェルブールの雨傘」で、脚本を大学のフランス語の授業で読まされることになり、残念ながら食傷なのである。この機会に、少し見直せるといいなあと思っている。

でも、もっと気になっているのはツァイ・ミンリャン(蔡明亮)である。今週末はたったの2日間の台湾映画祭というのもあるのだが、マレーシア生まれ台湾育ちのツァイ・ミンリャンの映画はまだ一本も観ていない(イギリスでは、DVD化されている作品がまだひとつもないわけで)。目玉は英語圏で観られる長編としては最新作の「黒い眼のオペラ」だが、一番観たいのは「西瓜」と「楽日」だ。「西瓜」の英語のタイトルは「The Wayward Cloud」、「楽日」は「Good bye, Dragon Inn」である。月末に向けて、また映画館に通うことになりそうだ。


で、このBFIの特集はいつもすごい。来月は内田吐夢だ。今年の夏は成瀬巳喜男だった。蓋しBFI、渋いとこ突いてくるぜ。

2007年11月12日月曜日

アードマンの身障者キャンペーン


ノーマン・メイラーが死んだり、一般家庭6500世帯分の電力を消費する国会議事堂が風/水力発電案を提示するなどのニュースも流れているが、個人的に一番気になっているのはアードマンアニメの新作だ。日本でも「ウォレスとグルミット(それにしてもなぜ「グロミット」ではないのだろう)」で有名なアードマンのCreature Comfortsという、市井の人々の生声を使って動物キャラのクレイアニメになっているという愉快なシリーズ。これの新作がCreature Discomfortsといって、身障者に対する偏見をなくそうというキャンペーンなのだ。放映は2008年1月より開始。

2007年11月11日日曜日

波動風力発電?

この記事を目にしたのはもう一ヶ月近く前だ。電気の話も出たし、ロンドンとはなんの関係もないけど、気になっている分野なので書いちゃうことにした。

タービンなしの風力発電である。バイオリンの弓のようなものに風を当てて、振動させることで発電しちゃうのである。風力発電というとあのプロペラ型の発電機というイメージだが、あれには鳥が飛び込んで、「天文学的な数で鳥が死ぬ」恐れがあるので動物保護団体から非難の声も上がっているそうだ。風の強いところには、渡り鳥も多い、ということですかね。というわけでこの弓で風力発電である。英語だが、このデモビデオ(時間にして約2分強)がけっこう面白い。

扇風機で風速4.5メートルほどの風を起こし、40ミリワット程度の電力を生み出している。LEDを灯すだけでなく、ラジオを鳴らしたり、壁時計を動かしたりもしている。ちなみに画像は開発者のショーン・フレイン氏の運営するHumdingerという企業のサイトに出ていた、携帯を充電する写真である。これは期待だと思う。実用化されたら、うちにも欲しい。住んでる区域は、風は決して強くないんだけどね。

2007年11月10日土曜日

ポリアコフの夜 - A Real Summer

スティーブン・ポリアコフの新作ラッシュである。立て続けに3作品の放映と、旧作の再放送、カルチャー・ショウでのインタビューなど、特にテレビ映画で類いまれな業績を残しているポリアコフの放送が続くとあっては、見逃すわけにはいかない。バスター・キートンのドキュメンタリに続き、ズッキーニ入りのカルボナーラという簡単な晩御飯の後、珍しくずっとテレビを観て過ごした土曜の夜。

今晩のハイライトはA Real Summerという作品である。昨年の「ジェイン・エア」で鮮烈なデビューを飾ったルース・ウィルソンによるモノローグだが二役という、「え、どうやって?」っぽい設定のドラマだ。45分の中編だが、これがとんでもない作品である。1958年という設定でまず、一瞬だけ登場するメイドと部屋を徘徊するダルメシアン以外は、ルース・ウィルソンしか出てこない。前半は主人公であり、唯一の登場人物であるメアリのモノローグ。その話の中の物真似で、ジェラルディンというキャラクターがウィルソンによって完全に演じ分けられるのだが、ジェラルディンはモノローグの中ではフェリシティという名前で登場する。後半になり、ジェラルディンは現実に存在する人物として電話までかけてくる。造りは舞台劇的だが、物理的に舞台では不可能な構成である。これがポリアコフの脚本でなかったら、これがルース・ウィルソンでなかったら。そう、全く観れたものではない退屈な作品だったろう。

先週のJoe's Palaceに続き、来週はA Real Summerの主人公をモチーフにしたCapturing Maryが放映される。観ないと分らないポリアコフ作品の「読後感」。楽しみである。

電気、選んでます

ガジェットっぽい話が続いたが、「ガジェットもこれがないとどうにもならない」というものの話。電気である。古くは国鉄、最近では郵政民営化で日本でも「民営化」が話題のひとつかもしれない。イギリスは公共インフラだと郵便、電話、鉄道から、電気、ガスまで民営化されている。アメリカのいくつかの州同様、イギリスでも<電気が選べる>わけだ。

うちに電気を供給しているのはEcotricityというちょっとベタな名前の電力会社だ。グリーン電力専門の電力会社としては世界初だそうである。今年の始めに、前の(言わば普通の)供給元を解約して、ここと契約した(その後、前の供給元が無断で契約を再開させようとするなど、ちょっとしたドラマもある)。Ecotricityにより発電された電力の最低3割は再利用可能資源である。なぜ3割だけなのかというと、ナショナルグリッドといって、電力を供給するパイプラインが別の会社の所有であるためで、発電の段階ではグリーンでも、供給の段階ではまだ完全にグリーン電力だけというわけにはいかないのだ。で、その発電方法だが、Ecotricityでは風力、水力、波力、太陽光などを「ディープ・グリーン(深緑)」、バイオマスなどを「ペイル・グリーン(薄緑)」と呼んで区別している。火力や原子力による発電は行っていない。

Ecotricityはオーガニック認証権を持つ団体であるSoil Associationエコベール日本語版サイト)、英国パーマカルチャーなどのその筋では大御所っぽい団体からステラ・マッカートニーのような環境に関する関心の高いセレブにまで承認されている。

10月25日付けのBusinessGreen記事によれば、Ecotricityは月当り1000件の新規契約に向けて拡張プランを発行したそうである(タイトルでは週当りとなっているが、内容から判断するにこれは本文中にあるように「月当り」だろう)。もっと広がるといいなあ、再利用資源の輪。

2007年11月9日金曜日

イギリスでiPhoneが発売に

11月9日、午後6時2分から(なんでこの時間なのかというのは後述)、iPhoneの英国内販売が開始された。お約束のように前日からテント張り組が、この原稿を書いている1時間半ほど前に英国で1台目のiPhoneをゲットしたそうだ。北ロンドン在住、二十歳の学生トム・ジャシンスキさんという方で、26時間待ったそうである。熱心だねえ。

8GBモデルが£269(約62500円)、電話会社であるO2への使用料が毎月£35(約8130円)、最低18ヶ月は契約を結ばなければならない。安くないよね。

で、既にお気づきの人もいると思うが、電話会社の名前がO2なので、6時「02分」に発売だっと、というオチである。ま、なんだかんだ言って欲しいんですけどね。

疑似ショコラティエ

仕事で超有名シェフ育成校に行ってきた。金銀合わせて40以上のメダルを持つパティシエの作業を眼前で見てきたのだが、まさに役得。通訳というのは、疑似体験程度の濃度で言えば「お金をもらって専門家の話を聞ける」的なところがある。で、まだナイショなのだが、とある企画で特別に開発されたトリュフの試食まで付いてきた。というわけでナイショなので、詳細は2008年のテレビ放映で。

2007年11月8日木曜日

TENORI-ONが来る

姉とペンギン・カフェ・オーケストラの話をしていて、「はっ」と気がついたことがある。コモンズから8月に発売されたペンギン・カフェ・オーケストラのトリビュートアルバムに収録されている嶺川貴子Telephone And Rubber BandTENORI-ONが使われているという記事を発案者である岩井俊雄氏のブログで目にしたのだ。その、開発中というニュースが流れ始めて2年近くになるTENORI-ONが、ついにイギリスでも発売になったらしい。たまに利用している楽器店でも「期間限定!お早めに」的な展開で売り出している(ちなみに価格は599ポンド。今日のレートで143,000円ってことですな。日本で買ったら、きっともっと安いでしょう)。

イギリスの公式サイトというのもちゃんとあって、ジム・オルーク、セニョール・ココナツのアトム・ハート、フォー・テットのキアラン・ヘブデンだとかのインタビューも出てたりする。9月に発売記念パーティもあったらしい。逃したー。コルグもカオスパッドを進化させた(んじゃないかな)KAOSSILATORというのものを出したりするようだが、TENORI-ONは使い方次第でものすごく面白いものができそうである。来月のDJまでに欲しいなー。

2007年11月7日水曜日

ゴールドフィンガーといっても


ジェイムズ・ボンドの話ではない。エルノ・ゴールドフィンガーという建築家のことである(もっとも、007の悪役は実際この建築家の名を取ったものなのだが)。ハンガリー生まれで、クロス&ブラックウェルという日本で言えば桃屋みたいな企業の跡取り令嬢と結婚してロンドンに落ち着いた、ものすごく不当に過小評価されている建築家だ。


例えばこのトレリック・タワー。英語ではブルータリストとして知られる様式だが、最近まですこぶる評判が悪かった。チャールズ皇太子はモダニズムが嫌いで、「あんなものドイツ空軍に爆破してもらえばいい」という内容の発言までしている。そこまでいかなくても、東ロンドンの、あまり裕福でない区域に住んでいる友だちで、ゴールドフィンガー作品群をして「貧民アパート」と呼んでいるのもいる。やつにとって近所に乱立してるトレリック・タワーに酷似したバルフロン・タワーやカラデイル・ハウスなどは低所得者層向けの団地以外の何ものでもないのだろう。これはカウンシル・フラットという公営アパートビルのようなものがかつて存在しており、低所得者層を中心に安い家賃で住める住居の提供ということで60年代から70年代にかけて大量生産された建築に混ざり、ブルータリストが社会的コンテクスト的にもあまりグラマラスなものとはみなされていなかったためと思われる。

と・こ・ろ・が、である。

このカウンシルフラットを80年代に入り既住人から優先的に買い取れるというシステムを導入(スローガンはOwn Your Own Home、「あなた自身の住処を手に入れてください」)、東ロンドンやウエストボーン・パークといったクリエイティヴな住人の多い区域に多く経っている「元カウンシル」がオシャレな建築になってきたのだ。

ミノル・ヤマサキプルーイット・アイゴーの二の舞にならずに済んで、本当に良かったと思う。

ピーターラビットのポターが所有地をすべて寄付したことで有名なナショナルトラストという歴史的建造物の保護を嚆矢としている団体も、ゴールドフィンガーの元住居をちゃんと保護すべき建築として登録している。土曜しか開いていないが、エルンストやデュシャンの作品なんかも置いてあって、隠れた名勝である。

2007年11月6日火曜日

歴史のコンテクストは抜き

毎年11月5日はガイ・フォークスの夜だ。花火の夜である。「この寒空に?」というのは、1605年のこの日にプロテスタントの英国王ジェイムズ1世を暗殺しようとしたカソリックのガイ・フォークスの所業にちなんで、なわけである。「暗殺で、なんで花火なの?」というのはこの男、国会議事堂を爆破しようとしたのである。爆破⇒火薬⇒花火である。分りやすい。この暗殺計画は直前にタレ込みがあって未完に終わり、フォークスは逮捕、拷問の末翌1606年1月31日に絞首刑となっている。マダムタッソーに行くと、むち打ちの痕も生々しい蝋人形もあるそうである。行ったことないから実物は見たことないけど。

で、花火といっても、大江戸花火祭りとは勝手が違う。テレビ放送されるわけでもなく、神宮球場みたいにみんなでそこに出向く場所があるわけでもなく、そこら辺の公園などで、「みんなで勝手に打ち上げ花火」、なわけである。一度だけハイベリー・フィールズのキャンプファイヤーを見にいったことがあるが、これが寒いわ、花火はご家庭用に毛が生えた程度でやけに盛り上がらない。この花火が大体例年10月最後の週からほぼ毎晩続く。テレビもまともに見えないくらいの爆音である。子供のいる家はどうしてるんだろうか。ちなみに、普通の猫ならソファの下にでももぐっているところらしいが、うちの猫は平然とグルーミングしていた。

2007年11月5日月曜日

削ぎ落とされたもの

スピタルフィールズ・マーケットは改装前の雑多な感じが好きだった。が、ちょっと丸の内っぽい雰囲気に突如現れる、一癖も二癖もあるお店が楽しいので、高層ビルが乗ってても「許す」みたいなものはある。マーケットは日曜だが、平日も営業しているお店もたくさんある。じゃ、気に入っているお店を何軒か。今回は「お茶とお菓子」編。


ティー・スミスはかろうじて古い建物の中に納まっているが、中は至極モダンである。そのはず、内装は建築家でもあるオーナーの奥方とジョナサン・クラークの手によるもの。そんなことおくびにも出さないところがまた「洒落でやってなんか断じてないな」を伺わせる。肝心のお茶の方だが旨い。めっぽう旨い。香港で二夏かけて修行、開拓に1年半かけたんだそうである。なにより、桂花烏龍、鉄観音だとかの台湾のお茶が飲めるのは、ロンドンでも少ない。お茶うけもウィリアム・カーリーという2007年度英国ベストショコラティエ賞をもらったパティシエの手によるもの。

モンテズマというのは15世紀、第5代アステカの皇帝の名前である。アルゼンチンやコスタ・リカに行くとモンテズマという地名があるようだが、イギリスのチョコレート屋さんがなぜこの名を冠しているのかまでは分らない。1キロチョコだとか、まな板のようにでかいチョコを割って量り売りというものもありつつ、尋常なトリュフの種類も豊富だ。就中、唐辛子入りのダークチョコは逸品である。ココアはちょっとマッシュルームドリンクのような味がするので好みが分かれるところかもしれないが。

2007年11月4日日曜日

本日の本棚猫

「ミドルネームはオードリーにするか」案まで上がったのは、本棚に平積みにされているオードリー・ヘプバーンの写真集の上を、猫が気に入っているようだからである。ちゃんと猫用のベッドみたいなものも、しつらえてあるのだが。

なお、件のオードリー写真集はちゃんと日本語版も出ている。「AUDREY HEPBURN―母、オードリーのこと」というタイトルだが、メル・ファラーとの間に生まれたショーンの回想録、正直言って読んで楽しいものではない(翻訳で、これがどこまで救われているのかも気になるところではあるが)。ただ、この写真集に出ているオードリーは、まさに息を呑む美しさだ。見飽きるほど出回っている「ああ、オードリーね」というフレームを徹底的に破壊するフレーム。日本語版とはページ数が違うかもしれないが、ぼくは個人的に172ページの写真が特に気に入ってる。

手打ちうどんに挑戦

仲のいい友だちに、それこそホットケーキとか、みたらし団子とか、「庶民派・粉のエクスパート」がいる。みたらしは、タレも手製だそうだが、旨いんだこれが。この人から「自分で手打ちしたうどんは本当に美味しい」みたいなことを聞いたのは、もう何年前だろう。今まで餃子の皮は手作りしたことがあったが、うどんは流石に。


ロンドンから車で3時間、国立公園の中のコテージに住んでいたことがある。ときに、小豆のあんこだとか、「食いてえ、でも売ってねえ」っぽいアイテムは手作りに精を出したものである。ロンドンに戻って、それこそ餃子の皮だとか、うどんの類いは中華街などで簡単に手に入る。まあでも、やってみますかね、手打ちうどん。昨今ほら、手作りって楽しいし。

といった感じで、所謂ひとつの「ごんぶと」になってしまった。おいしかったけどね。

パンを始めて焼いたときも、寝かせる時間が足りなくてごっつ重くて固いものになってしまったが、寝かせるのって、かなり重要みたいである。次はもっと寝かせて、生地も薄く伸ばして、と。

ちなみに、乗っているのはアラスカ産のキングサーモンをサッと焼いてほぐしたものとチャイブと七味である。だしはオーソドックスに昆布とかつおでとった。醤油は自然食品店で仕入れている、杉樽2年仕込みの上撰。いやー、贅沢だ。

2007年11月3日土曜日

テートの割れ目

コロンビア人アーティスト、ドリス・サルセードによる「シボレス」という<作品>なのだが、これがすごい。場所はテート・モダンである。ヘルツォグ&ド・ムーロンによるターバイン・ホール自体が素晴しいリサイクルだと思うが、そのホールのコンクリートの床に、167メートルに渡って亀裂が入っているのだ。近づいて見てみる。かなり複雑に彫り込んである。ぼくは建築構造には全く疎いものの、どうやったのか、全く分らない。

それにタイトルのシボレスって、聖書にも出てくる「本物かどうか、あるグループや団体に属するかどうかを見分ける暗号、合い言葉」みたいな意味で現代英語でも使われる、元はヘブライ語の言葉である。英語版のウィキペディアに出ていたサルセードの言葉を引用してみると、

"(crack in the hall's floor) represents borders, the experience of immigrants, the experience of segregation, the experience of racial hatred. It is the experience of a Third World person coming into the heart of Europe.(亀裂は国境、移民たちの経験してきたこと、人種間の隔絶、憎悪を象徴する。それは、ヨーロッパの中枢に入り込んでくる第三世界出身者の経験そのものある。ー試訳)"
ほとんど猟奇的とも言えるこの作品、2008年4月6日まで「開催」。来週末もまた行っちゃおうかなー。

2007年11月2日金曜日

増殖する洗面台


以前に増してますます通うようになっている、ロンドンで一番気に入っている区域はブルームズベリだ。最初の修士を取得した大学院は、ロンドンのブルームズベリという地域にある。旅行者として始めて来たロンドンでの滞在地もブルームズベリだった。パリで食べたそれよりも数マイル以上はおいしいと思うアーモンド・クロワッサンを出しているカフェもこの近くにある。大英博物館もこの辺り。中庭にガラスの天蓋を付けただけと言えばそれまでだが、行くたびについ見上げてしまうグレイト・コート(新たに足したイオニア様式の大理石、材質間違っちゃったらしいんだけども)。

その大英博物館はグレイトコートのトイレの鏡。対面する壁全面を覆っているので、永久に増殖を続ける液体石鹸入れがシュールで好きなのである。しかしこれ、利用者の中にこの不思議さを楽しんでいる人があまりいないことのほうが不思議だ。ま、用を足しにきてわざわざ立ち止まるほどのものでもなかろうか。

若干写真が暗めだが、ノーマン・フォスターによるラティス構造の天蓋はこんな感じ。フォスター卿のすごさのひとつに、「浮いてるハマり具合」というのがあるように思う。溶け込まない同調というか、主張はものすごくしているのだが、時を経ずして目に馴染む。

2007年11月1日木曜日

Miso Pretty

マリルボーンというカナ表記が定着しているようだが、発音的に近いのはマーリボーンだと思う。で、コンランの話が出たトコロでマーリボーンにあるコンランショップでMiso Prettyというブランドの石けんを仕入れてきました。柿の汁が入っているんだそうで、すごくいい匂いがする。そもそもはその分りやすい名称と、なによりもそのハイパーキッチュなパッケージングに目を引かれたものの、調べてみるとちょっと街で目立つ買い物バッグなんかを作っているBlue Qという会社のものだった。

で、この石けん、どぎついオレンジでかわいいんだけど、泡を流す水までオレンジなのでちょっと着色料が恐いかなー。ちなみにハンドクリームみたいのもありました。