2008年3月31日月曜日

道徳の癲癇、20年記念のマメット

モラル・エピレプシーという主題。善悪の彼岸はニーチェだが、マメットの舞台は善悪の癲癇である。今日はThe Old Vicという劇場で、マメットの傑作「Speed-the-Plow」を観てきた。経営難で倒産の危機にさらされていたOld Vicだが、製作総指揮にケヴィン・スペイシーを迎えて以来見事カムバックのようである。この日も月曜の晩だというのにキャンセル待ちに100人以上の行列、ひとつの空席もない状況での開演となった。それもそのはず、ジェフ・ゴールドブラムとスペイシーの主演、歌手でもあり舞台版「ロード・オブ・ザ・リング」にも出演しているミュージカルスター、ローラ・ミシェル・ケリーの助演という贅沢なキャスティングでこのマメットの戯曲、初演から20周年なのである。

ハリウッドのプロデューサー、ボビー(ゴールドブラム)の仕事仲間であるチャーリー(スペイシー)が次の映画のネタを持ち込む。軽薄そのもの、金儲けにさえなれば内容はどうでもいい、典型的にモラルの低いこの二人。そんなボビーのオフィスに秘書として入ってきたカレン(ケリー)にもセクハラ寸前の振る舞いが続く。ボビーはいとも簡単にカレンを自宅に招くが、その純真無垢な振る舞いに自らのなりふりを反省、翌日チャーリーにこの世界から足を洗うつもりまであることを告白、思い詰めるボビーだが、、、。というプロット。

見所はなんといっても登場人物3人の演技と呼吸である。特にスペイシーのエネルギーは見る者に伝染せずにはおかない凄まじいパワーだ。コメディではあるが、「このカレンって女、実は狡いんじゃないの?」っぽいサブプロットも含め、噛み締めるほどに味の出る戯曲である。タイトルは作者によれば「意味としては'Industry produces wealth, God speed the plow.' という格言に基づいている。労働ということを意味するのみならず、一から出直しという意味もあって、この戯曲に完璧なタイトルだ」ということだそうである。なるほど、産業が富を生んでいる間、神は素早く鋤を動かすわけですな。

「Speed-the-Plow」は、単なるハリウッドへの風刺だけでは終わらない。ウォータールー駅から数分のOld Vicで4月26日まで。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

speed-the-plowで検索して読ませていただきました。
20年まえのを観て以来、日本語でやってみたいと
思ってあるていど翻訳したんですけど、さすがマメット、
よくわからないことが多すぎて、、、

タイトルからして悩んでいるので、
もしお手数でなければ、タイトルの意味を解説している
文章が載っているものを教えていただけますか?