屋号は「セント・ジョン」。パンとワインが売り物のスピタルフィールズ店は、スミスフィールズにある本店と比べ、取っ付きやすい背の低さ。所謂コースという概念はない。メニューの値段を見ればそれが大きめか小さめか分るようになっていて、出てきた順にみんなで分けながら食べる、という体裁だ。たとえばスプラット。これは小さめのイワシで、薫製なのだが見た目は見事にメザシである。ホースラディッシュが付いてきて、絶妙の取り合わせだ。たとえばオールド・スポット。ほとんど<レア>の、溶けそうに甘い豚のバラ。一緒に出てくるのは、コンヨウセロリというセロリとは別の野菜だがほんのりセロリの味がする根菜が芥子和えになったもの。たとえば野ウサギのリエット。これまた絶妙なピクルスとの組み合わせ。たとえばヘレフォード。これはローストビーフのオープンサンドだ。たとえばスケイト。ガンギエイの頬肉が、オリーブ油とフレッシュハーブによるサルサで完璧な歯応え。たとえばファゴット。これはバスーンのことではなく、とろとろに柔らかいマッシュポテトの上にのせられた肝臓が入った巨大肉団子にタマネギのグレイビーの料理である。スペルは、ちなみにfagot。
デザートのルバーブ・リップル・アイスクリームもレモン・ポセーも、チョコレートムースも素晴しいのだが、極めつけはエクルスケーキとランカシャーチーズのデザートだ。エクルスケーキというのは、そこら辺で売っているものだとただのレーズンクッキーだが、ここのは違う。まるで木村屋のアンパンのようにぎっしりレーズンがパイ皮にくるまれている。これに、大きめスライスのランカシャー。一切れずつ口に運ぶと、ちょうどいい甘さとしょっぱさ。「セント・ジョン」はこの組み合わせの妙に尽きると思う。かつては庶民の食べ物だった、今は貴重なメニューを気取りなく現代に再生している。今度行ったら、子羊の舌とか、豚のしっぽとか、薫製のウナギも試してみたい。
2008年3月3日月曜日
聖ヨハネとは無関係でも
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