2008年3月6日木曜日

18 Folgate Streetのこと

スピタルフィールズはマーケットの街でもあるが、現代アートの街でもある。ギルバート&ジョージやトレイシー・エミンもここに居を構え、スタジオを構えているのは有名な話だろう。そして道を一本渡れば、そこはもはやバングラデシュ。これを共存と呼ばずしてなんと呼ぶ。移民の街としての歴史は数世紀以上というのも特徴の1つだ。そんなスピタルフィールズの北の外れに、一際異彩を放つ建物がある。とは言っても、外からはその異色さが分らない。一歩入って初めて分る、その言わんともしがたい異様さ。基本的には、18世紀後半からユグノーの一家が住んでいた10部屋の地下一階地上4階の連棟のひとつなのだが、ここは所謂博物館とはちょっと違う。そもそも、ここは博物館などではないのだ。

まず、電気が通っていない。ここの住人だった異邦人は、20世紀の後半20年という歳月を電気なしで生活していたのだ。地下の一部屋など、ロウソク一本である。如何に現代人が電気に毒されているのかを思い知らされることになるのだが、数分この部屋の空気に触れているうちに不思議といろいろなものが見えてくる。もうひとつ、匂いが重要な要素であること。よく乾燥された松の燃える匂い。古い紙、木綿、ポルトの匂い、牡蠣の殻、大鋸屑のように床の角に掃きよせられたラベンダーの匂い。そして割れたままの皿、壁にかけられたホガースと一体化することを<強制する>倒れたままの椅子と但し書き。架空のジャービスという一家の存在を感じてもらうために凝らされた工夫の数々を感じること。そう。ここは史実に即した博物館などではなく、1人の人間の想像力が築き上げたファンタジーなのだ。開いているのは第1と第3の日曜2回と翌月曜の昼、そして毎週月曜の晩のみである。毎週月曜の晩に開催されている、キャンドルナイトがおススメだ。

ここの元住人は南カリフォルニア生まれ(国籍はカナダ)、イギリスの生活に憧れて30歳の時にこの地に辿り着いたアーティストである。若干50歳で逝去。一口で言ってしまえば、ロンドン東部に住み着いた異邦の変人としかいいようがないデニス・スィーバース。デイヴィッド・ホックニーは、この家をオペラと呼んでいる。体験してこそ分る、この真意。

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