どんな巨匠にも、生涯のうち制作された映画の中に、ものすごく訳の分らない作品が一本くらいは必ずある。小津安二郎にはオナラの映画があるし(「お早よう」)、チェン・カイコーには「キリング・ミー・ソフトリー」がある。いい作品がいっぱいある中に突然「なんじゃそら研究会」的な作品が出てきちゃうのは、創造者にとって避けられないものなのだと思う。
成瀬巳喜男は、その比較的短い人生の間に89本もの映画を残している。<15年のスランプ>説もあるように、世間一般に駄作と思われている作品も、一本や二本ではない。あまつさえ、監督自らして「あのシャシンはどうも、、、。」と言わしためた作品がある。この、「浦島太郎の後裔」である。
一口で言ってしまえば、この映画の通奏低音は藤田進扮する浦島五郎の「雄叫び」である。タイトルにも現れている<浦島太郎がご先祖様>という設定もさることながら、マンガ的な詰めの甘い展開と、ドラえもんのキャラクターに出てきそうなネーミング(日本幸福党だとか、人名も乙子、千曲女史、阿加子など)もすごい。戦後占領下で民主主義路線で監督を余儀なくされた作品ということのようだが、「スミス都へ行く」を下敷きにしたというストーリーと、民主主義との関連性も分らないし、ネーミングの子供っぽさと民主主義に至ってはその2つが同じ範疇で語られるべきものですらないと思う。成瀬本人にしてみてもまったく不本意な作品ということのようであるが、もしこれが始めての成瀬作品だとすると「成瀬ってどこがいいんだろう?」と思っちゃう危険性大だ。
しかしこの映画、出演者、スタッフとも侮れない顔ぶれである。中村伸郎、杉村春子、高峰秀子、菅井一郎、宮口精二といった東宝のスター勢揃いというキャスティングもさることながら、特撮が円谷英二なのだ。国会議事堂上で叫ぶ藤田進を影で支えているのが、円谷英二なわけである。こんな映画は、そうないんではなかろうかと思う。
一見「成瀬なのか?本当にこの映画は成瀬が撮ったのか?」という作品だが、編集の手腕、洞察力などは紛れもなく成瀬巳喜男である。失敗作と言われているが、果たしてそうなのか?1946年作品。
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